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名古屋地方裁判所 平成4年(ワ)2130号 判決 2000年3月08日

原告

株式会社岩崎設計事務所

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

住田正夫

右中野俊彦

右訴訟復代理人弁護士

渡邊一平

被告

ハローフーヅ株式会社

右代表者代表取締役

被告

灯地建設株式会社

右代表者代表取締役

右二名訴訟代理人弁護士

小栗孝夫

同右

小栗厚紀

同右

石畔重次

同右

後藤脩治

同右

長谷川龍伸

被告

アイ・エス・オー設計株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

伊藤保信

被告

更生会社日本国土開発株式会社管財人E

被告

更生会社日本国土開発株式会社管財人F

右両名訴訟代理人弁護士

渡邊賢作

同右

斎藤祐一

同右

永沢徹

同右

山本健司

同右

岩崎晃

主文

一  被告アイ・エス・オー設計株式会社は、原告に対し、一四三万円及びこれに対する平成三年七月一〇日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告アイ・エス・オー設計株式会社に対するその余の請求、及びその余の被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告に生じた費用と被告アイ・エス・オー設計株式会社に生じた費用は、いずれもこれを一〇分し、それぞれその一を被告アイ・エス・オー設計株式会社の負担とし、その余を原告の負担とし、その余の被告らに生じた費用は原告の負担とする。

四  この判決の第一項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告ハローフーヅ株式会社、被告灯地建設株式会社及び被告アイ・エス・オー設計株式会社は、原告に対し、連帯して、四四〇〇万円及びこれに対する平成三年七月一〇日から支払済みまで、年五分の割合による金員を支払え。

二  原告が、更生会社日本国土開発株式会社に対し、四四〇〇万円の更生債権を有することを確定する。

第二事案の概要

一  本件は、建築設計業者である原告が、

1  第一次的に、被告ハローフーヅ株式会社(以下「被告ハローフーヅ」という。)、被告灯地建設株式会社(以下「被告灯地建設」という。)及び被告アイ・エス・オー設計株式会社(以下「被告アイ・エス・オー」といい、三社を合わせて「被告会社ら」という。)及び更生会社日本国土開発株式会社(以下「更生会社」という。)が、原告の著作物であるショッピングセンターの設計図のうち一部の図面を無断で複製、改変した上、右複製図面を被告アイ・エス・オーの図面として建築確認申請を行ったとして、被告会社らに対し、連帯して、著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償として三六〇〇万円、著作者人格権侵害による不法行為に基づく慰謝料として四〇〇万円、弁護士費用として四〇〇万円、及び右各金員に対する不法行為後である平成三年七月一〇日からの遅延損害金の支払を求め、被告更生会社管財人E及び同大F(以下「被告管財人ら」という。)に対し、原告が、更生会社に対し、右四四〇〇万円の損害賠償債権を有しているとして、右更生債権を有することの確定を求め、

2  第二次的に、更生会社、被告灯地建設及び被告ハローフーヅは原告との間で、原告作成の前記設計図を使用しないとの合意をしていたにもかかわらず、被告らは、共同で原告の右不作為債権を侵害したとして、債権侵害による不法行為に基づく損害賠償として、被告会社らに対し、連帯して、四〇〇〇万円及び右金員に対する不法行為後である平成三年七月一〇日からの遅延損害金の支払を求め、被告管財人らに対して右四〇〇〇万円の更生債権の確定を求めるものである。

二  争いのない事実等

1  原告は、一般建築設計及び監理等を業とする株式会社であり、被告ハローフーヅは、食料品等の販売等を業とする株式会社、被告アイ・エス・オーは、建築設計及び建築監理等を業とする株式会社、被告灯地建設は、建築工事等を業とする株式会社、更生会社は、土木、建築の設計及び請負等を業とする会社である。

2  被告ハローフーヅは、原告に対し、平成元年一一月ころ、「(仮称)東刈谷ショッピングセンター(以下「本件建物」という。)」の新築工事(以下「本件工事」という。)の設計監理を依頼した(原告代表者。以下「本件契約」という。)。

原告は、これを受けて、一級建築士でもある原告代表者Aを中心として、本件建物の基本平面図等の設計図書(以下「原告設計図書」という。原告設計図書のうち、原告がその著作権を侵害されたと主張している別紙原告設計図の図面三九枚を、総称して「原告設計図」、個々の図面を「原告図面」といい、特定の図面を指すときは、各図面に付された番号で示す。)を作成した。

3  被告ハローフーヅは、原告に対し、平成三年四月一一日、本件契約を解約する旨の意思表示をなし、同月一七日、被告アイ・エス・オーを設計監理者、更生会社と被告灯地建設の共同企業体を請負者として、本件工事の請負契約を締結した。

4  被告アイ・エス・オーは、本件建物の設計図書(以下、「被告設計図書」という。被告設計図書のうち、原告がその著作権を侵害したと主張している別紙被告設計図の図面三九枚を、総称して「被告設計図」、個々の図面を「被告図面」といい、特定の図面を指すときは、各図面に付された番号で示す。)を製作し、同月二六日、被告ハローフーヅを代理して、本件建物の建築確認申請を行った(甲二六の一、三二、乙七)。

5  被告ハローフーヅは、本件契約の解約後、原告との間で、解約に伴う処理に関する交渉を進めてきたが、同年六月八日になって、両名の間で、次のような内容の確認書(甲三。以下「本件確認書」という。)が取り交わされた。

(一) 被告ハローフーヅは、原告に対し、本件工事についての設計料として、三四〇〇万円を支払う。

(二) 被告ハローフーヅは、原告設計図書は、一切使用しないことを確約する。

(三) 原告は、被告ハローフーヅの本件建物の建築完成に対し、協力することを確約する。

6  更生会社は、平成一一年一月一四日、東京地方裁判所で更生手続開始決定を受け、被告管財人らが更生会社の管財人に選任された。

原告は、更生会社に対する更生債権として、損害賠償金債権四四〇〇万円の届出をしたところ、被告管財人らは、平成一一年一〇月二六日に開かれた債権調査期日で、右届出債権全額に異議を述べた。

三  争点

1  原告設計図は著作物といえるか。

(原告の主張)

以下のような事情からすれば、原告設計図は、思想性、学術性及び創作性を備えた図形の著作物である。

(一) 原告代表者は、本件建物の概要の決定及びその細部の設計において、一級建築士の能力と知識を駆使して優れた設計を行ったのであり、原告設計図は、原告の思想や技術が表現された、学術的書面である。

(二) ショッピングセンターは、街並みと調和し、多くの人から買物をしに行きたいと思われるようなものでなければならず、被告ハローフーヅも、外観のよい、消費者にインパクトを与えるものを作ることを希望していた。そのためには芸術性も重要な要素であるため、原告設計図は、芸術性も有している。

(三) 被告ハローフーヅは、原告代表者が種々の工夫をこらした基本設計に対して、部分的に要望を出してくることはあるが、その要望を満たすための設計方法を知っているわけではなく、原告設計図は、原告代表者が、被告ハローフーヅの要望を満たすように能力や経験を駆使して創作したものである。

(四) 本件確認書二項において、被告ハローフーヅが、原告設計図書を一切使用しないことを確約したのは、原告設計図が、原告の著作物であることを前提としている。

(被告らの主張)

(一) 著作物といえるためには、思想性、芸術性及び創作性を有していなければならないところ、本件建物はディスカウントストア用の建物であり、芸術的表現を目的とした建物ではない。また、本件建物の外観は、特に新奇、斬新なものではなく、ディスカウントストアとしてはごくありふれた建物にすぎない。レイアウトもごく一般的な、公知のものである。

更に、本件建物の外観、レイアウトは、すべて被告ハローフーヅの長年にわたる店舗展開の経験に鑑み、右公知の技術の中で、被告ハローフーヅ側で考案したものであり、原告は、被告ハローフーヅの要望の範囲内において、その指示に従って、安全性を確保するとの技術的観点から、工事に必要な設計図面を作成したにとどまる。

したがって、原告設計図には著作物として保護されるために必要な思想性、芸術性及び創作性がいずれも認められず、著作物とはいえない。

(二) 原告設計図は、矛盾、齟齬がある部分を多数有しており、これに従って建物を完成させることはできないから、著作物性を主張するに足る完全性、完成性を有していない。

(三) 仮に、原告設計図の中に、著作物性を有する図面があるとしても、細部の部分的な内容に発生する余地があるにすぎないし、創作性の余地のない単なる技術的書面である計算書、下請設備業者に作成させるのが通常であり、かつ、設備の内容を機械的に専門的表現方法で表現していくと自動的にできあがる設備図面、書き方、項目、順序及び記載内容の定型化されている表、法務局が著作権を有する公図は、いずれも原告の著作物ではない。

2  被告設計図は、原告設計図を複製したものか。

(原告の主張)

(一) 被告設計図は、原告設計図と、形、色、作図方法、表現方法までが極めて類似しており、ほぼ同じものである。被告設計図と原告設計図とのわずかな違いは、被告アイ・エス・オーが意図的に原告設計図と異なる部分を作ったものである。

なお、個々の図面の類似点についての主張は、被告図面の着色部分のとおりである。オレンジ色及び青色で着色した部分は、原告図面より書き写した部分、ピンク色で着色した部分は、原告図面の作図方法、表現方法をまねた部分、緑色で着色した部分は、原告図面をコピーして使用している部分である。

(二) 右のように、両設計図が極めて類似している事実、及び被告設計図の中で、図面同士が矛盾する部分がある事実は、被告アイ・エス・オーが、原告設計図を、自分の設計図用紙の下に置いたり、横に置いたりして、引き写したことを示すものである。

(三) 被告設計図を実際に作成したのは被告アイ・エス・オーであるが、被告会社ら及び更生会社は打合せの上、原告を本件工事から排除するという共通の目的のもと、原告設計図の一部を変更して被告設計図を作成したのであるから、被告会社ら及び更生会社は、共同して原告の著作権を侵害したといえる。

(被告らの主張)

(一) 原告設計図と被告設計図との間に、類似性は認められない。

被告アイ・エス・オーは、本件建物を独自に考案して設計し、その結果、被告設計図は、原告設計図と大幅に異なったものとなっている。

類似しているように見える部分は、設計図の表現方法が限られており、同種の建物に同種の工法、技術を採用しようとすれば、おのずから類似の表現をとらざるを得ない結果、そのように見えるにすぎない。色、形も、原告と被告アイ・エス・オーが、いずれも白を基調とし、四角い形をした通常のショッピングセンターを設計しただけである。

なお、個々の図面の相違点についての主張は、別紙「図面の類似性についての被告らの主張」欄のとおりである。

(二) 仮に一部類似した部分があるとしても、それは、被告ハローフーヅが卓越した経験から独自に考案して、被告アイ・エス・オーに指示し、被告アイ・エス・オーが、右指示に従いつつも、独自に設計図を作成した部分である。被告ハローフーヅが原告に対しても同じ指示をしていれば、原告設計図と被告設計図において、本件建物のレイアウト、配置及び外観は、結果的に当然同じあるいは似たものになるのであって、両設計図が似ていることは、被告設計図が原告設計図に依拠したことを意味するものではない。

(三) 被告会社ら及び更生会社が、共同して著作権侵害行為を行ったとの主張は争う。

3  原告は、原告設計図の使用を許諾したか。

(被告らの主張)

(一) 本件確認書一項記載のとおり、被告ハローフーヅは原告に対し設計料三四〇〇万円を支払ったのであるから、被告ハローフーヅが原告設計図をそのまま使用できることは当然であるし、被告ハローフーヅから本件工事の設計監理を請け負った被告アイ・エス・オーが、原告設計図をそのまま使用できるのも当然である。

本件確認書二項は、原告の立場を尊重し、別途設計図面を作り直さなければならないことを合意したものにすぎない。

(二) 本件確認書三項は、原告が、被告会社ら及び更生会社が即時本件工事に着工することについての同意をし、従前の手続をそのまま活かすことを合意したものであるから、少なくとも都市計画法の開発行為の許可(以下「開発許可」という。)の申請書に添付した図面については、原告もその使用を許諾している。

(原告の主張)

被告ハローフーヅは設計料を支払っていないので、原告設計図を使用できることにはならない。

本件確認書一項には「設計料」とあるが、これは、被告ハローフーヅの経理処理の都合に基づく強い要請から設計料という名目にしたにすぎず、右金員は、設計以外に、店舗開設に向けて原告が種々行ってきた業務の対価として支払われた解決金である。

4  原告の損害及びその額

(原告の主張)

(一)(1) 原告が、被告会社ら及び更生会社による著作権侵害行為により受けた損害は、原告設計図書の著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額の損害というべきである。建設省告示第一二〇六号「建築士法第二五条の規定に基づき建築士事務所の開設者がその業務に関して請求することのできる報酬の基準」を参考として作成された「設計監理業務報酬料率表」(甲四七)によれば、工事費が八億円を超え一〇億円までの金額の店舗の場合、工事費の四・三パーセントが設計料であるところ、本件工事の現実の請負代金額九億五二七五万円を基準にすると、設計料は四〇九六万円余りである。したがって、原告の損害は四〇〇〇万円を下らないので、その内金三六〇〇万円を請求する。

(2) 建物の設計においては基本設計が重要であるところ、被告設計図は、配置図、平面図、立面図、断面図等原告設計図書の本質的かつ重要な部分を複製したものである。したがって、被告設計図部分だけでなく、被告設計図書全体が、原告設計図書全体を複製したと評価されるべきものである。

(3) なお、被告ハローフーヅは、原告に対し、本件確認書に定められた三四〇〇万円を支払っているが、これは、設計の対価として支払われたものではないから、右支払により、原告に損害が発生しないということはできない。

(二) 被告会社ら及び更生会社は、原告設計図書を一部修正、改変した設計図を複製することにより、原告設計図書の同一性保持権を侵害し、右複製設計図書に原告の作成名義を付さず、原告の氏名表示権を侵害し、原告の一級建築士事務所としての名誉、信用を傷つけた。

このような被告会社ら及び更生会社による原告の著作者人格権の侵害により原告が被った精神的損害に対する慰謝料は、四〇〇万円を下るものではない。

(三) 本件訴訟に至る経過、本件訴訟の難易度、本件訴訟における被告会社ら及び更生会社の対応等訴訟追行上の事情等を考慮すれば、弁護士費用四〇〇万円も相当として認められるべきものである。

(被告らの主張)

原告と被告ハローフーヅの代表者が、本件契約の解約に関する事後処理について協議した結果、被告ハローフーヅは、原告に対し、設計料として三四〇〇万円を支払った。原告の約定報酬は、もともと本件工事の総工事費八億円の四パーセントであったところ、右三四〇〇万円は、最終的な工事費の目安である八億五〇〇〇万円の四パーセントとして算出したものであり、約定報酬全額である。

本件建物は、もともと株式会社主婦の店(以下「主婦の店」という。)が出店を計画し、原告が、主婦の店から設計を依頼されて、主婦の店の業務として種々活動を行い、ある程度進行した状態で、被告ハローフーヅが原告に対し設計を依頼したものであり、設計料以外の労務の対価が発生することはないから、右支払を超える損害は発生しない。

5  債権侵害に基づく請求について

(原告の主張)

被告ハローフーヅは、本件確認書において、原告設計図書を使用しないと約束し、更生会社の黒川営業部長は、原告に対し、平成三年四月一八日の昼ころ、更生会社と被告灯地建設の共同企業体を代表する立場で、被告ハローフーヅと同様、原告設計図書を一切使用しないと約束した。これによって、原告は、原告設計図書を使用されないという権利を有するに至ったところ、被告会社ら及び更生会社は、原告設計図書を使用し、本件建物を建築して、共同して、原告の右権利を侵害した。

これにより、原告は四〇〇〇万円の損害を被った。

(被告らの主張)

被告会社ら及び更生会社が、原告設計図書を使用したことはない。

第三当裁判所の判断

一  原告設計図書、被告設計図書の作成経過等

証拠(証人G章、原告代表者、被告ハローフーヅ代表者、被告アイ・エス・オー代表者)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  東刈谷ショッピングセンターについては、当初、主婦の店が出店を計画し、土地の取りまとめや地元商店街との調整を進め、開発許可申請手続まで済ましていたが、主婦の店が出店を断念することになり、平成元年九月ころ、被告ハローフーヅが主婦の店の地位を受け継いで、出店計画を進めることになった。

2  原告は、主婦の店が出店するについて、主婦の店から依頼されて、地元との折衝や店舗、駐車場用地の賃借り交渉の取りまとめや、開発許可申請手続にあたり、店舗の設計監理も依頼され、設計の作業も進めていた。

そこで、被告ハローフーヅは、原告に対して引き続き地元との折衝などを依頼し、平成元年一一月、本件建物の設計監理を依頼した。設計監理の報酬については、その後の交渉の結果、工事費の四パーセントとすることに合意された。

3  主婦の店の店舗の設計とは全く関係なく、最初から本件建物の設計をすることとなったので、原告は、第一案から第五案まで構想図を提出したが(甲三八、乙一)、被告ハローフーヅの採用するところとならず、被告ハローフーヅから敷地内における建物の配置、建物内における売場、バックヤード、設備及び配置について指定がなされ、これに従って原告の設計作業が進められた。その後、細部についても被告ハローフーヅから種々の希望が出され、建物の北西寄りの出入口、階段と客用便所の位置を逆にする方がよいということで、変更されたこともあった。空調や照明関係などの設備については、被告ハローフーヅの開発部や従来から被告ハローフーヅの工事を行ってきた業者と相談して、設計作業が進められた。また、本件建物には、地元商店街の商店がテナントとして入店することが、既に決定されており、各テナントの場所などについても、被告ハローフーヅと各テナントとで合意されたので、原告は右合意に沿って、テナントに関する部分の設計作業を進めた。

原告は、このようにして、平成元年一一月から一年間をかけて、基本設計を終わり、平成二年一二月までに実施設計をして、原告設計図書を完成した。

なお、被告ハローフーヅは、原告への依頼に際し、本件工事の予算は八億円であることを伝えたが、原告は、被告ハローフーヅの要望を入れると一〇億円を超えることになるであろうと説明し、設計をした後に、予算に合わせて建築内容を変更すればよいといって、原告の考えで設計を進めていた。

4  実施設計作業と並行して、開発許可のための事前協議や、給水申込みの事前協議、県道、市道乗入申請書の作成作業などが進められ、平成三年一月二九日には、開発許可の申請書が提出された。右開発許可申請書には、原告設計図書の該当図面が添付された。

そして、同年二月六日原告設計図書を内容とする建築確認申請がなされた。

5  平成二年一二月二九日、被告ハローフーヅは、被告灯地建設、更生会社、大日本土木株式会社、神谷建設株式会社、村本建設株式会社、五洋建設株式会社の六社を集めて、本件工事について入札説明会を開き、原告設計図書を前提に、本件工事の見積りを依頼した(甲七〇、七一)。この席には、被告ハローフーヅからはG常務も出席していたが、被告ハローフーヅの予算額を提示することはなかった。

平成三年一月二〇日ころには、右見積りの結果が出そろったが、各社の見積金額は、総額一三億二三〇〇万円から一六億四八〇〇万円と被告ハローフーヅの予定額より大幅に高額なものであった(甲四九)。

6  そこで、G常務は、入札した会社に八億円で工事ができないかと減額について意見を聞いたが、原告設計図書の内容では減額は困難であるという返事であった。

そこで、G常務は、被告灯地建設、更生会社や大日本土木株式会社らに対して、予算の範囲内で可能な設計施工の提案を求めたところ、これらの会社は、それぞれ検討し、提案をしてきた。

7  被告アイ・エス・オーの代表者は、同年二月ころ、被告灯地建設の田岡常務から、原告設計図書に基づいて更に見積額を減額できるかについて意見を求められて、初めて本件建物の設計に関係することになったが、その時は、三〇分ほど図面を見ただけで不可能であると意見を述べた。

その後、被告アイ・エス・オーの代表者は、G常務から提案を促された被告灯地建設から、本件建物について安い工事費で施工できるように設計をし直すことを依頼され、本格的な検討に入った。

被告アイ・エス・オーは、被告ハローフーヅから、開発許可の関係はそのまま維持し、売場やテナント、バックヤードの位置など店舗内のレイアウトなどは決定済みであるとして、これらを前提として設計するように依頼されたので、原告設計図書を参照しながら、設計作業を進めた。

8  一方、G常務は、原告に対して、工事費が安くできるように設計の手直しを求めていたが、原告からはあまり良い返事は得られなかった。そこで、同年三月八日、G常務は、原告に対し、原告の設計では、被告ハローフーヅの予算内で工事を行うことは不可能であり、設計も施工業者に依頼することとしたので、本件工事から手を引いてほしいと申し入れた。しかし、原告は、右申入れを拒否した。

9  同年三月二〇日、被告ハローフーヅの代表者Bは、原告に対して、原告設計図書の手直しをした上で、原告の推薦する神谷建設株式会社、山旺建設株式会社、日産建設株式会社の三社に対して再見積りをさせるが、それとは別に、被告灯地建設と更生会社の共同企業体及び大日本土木株式会社に対しても独自の設計施工による見積りをさせ、その中から決定する旨を伝えた。

10  原告は、建物の高さを低くしたり、照明や空調機の個数を減らしたり、外壁の仕上げを安いものにするなど設計の手直しをした。右手直しした図面に基づいて、神谷建設株式会社、山旺建設株式会社、日産建設株式会社は、再見積りを行い、同年四月四日ころ、九億円前後の見積書を提出した。更に、その後被告ハローフーヅから仕様の一部を変更することを前提とする再見積りをするように指示があり、右三社は再見積りをした。(甲五〇ないし五三)。

被告灯地建設と更生会社の共同企業体は被告アイ・エス・オーの設計に基づいて約九億円の見積書を提出し、大日本土木株式会社は約一〇億円の見積書を提出した。

11  被告ハローフーヅは、それぞれの設計内容と見積りを検討した結果、本件工事を更生会社と被告灯地建設の共同企業体の設計施工で行わせることに決定し、同年四月一一日、被告ハローフーヅから、原告に対し、その旨伝えて、原告との間の設計監理契約について解約の意思表示を行った。

同月一七日、被告ハローフーヅは、被告アイ・エス・オーを設計監理者、更生会社及び被告灯地建設を請負者として、請負代金九億五二七五万円で、本件工事の請負契約を締結した(乙一二)。

12  被告アイ・エス・オーは、当初は、被告灯地建設の子会社であるアーキプラン株式会社の仕事として、本件建物の設計をしていたが、契約締結段階になってからは、被告アイ・エス・オーとして設計監理を行うこととし、それまでにアーキプラン名義で作成していた設計図の名義欄を同被告名義に張り替えるなどした上、必要な図面の作成を進め、同年五月には、被告設計図書を完成した。そして、同月二八日、同図面により建築確認がなされた(乙七)。

なお、原告設計図書による建築確認申請は、同年四月中に取り下げられていた。

13  同年四月一一日をもって、本件建物についての原告と被告ハローフーヅの設計監理契約は被告ハローフーヅの解約の意思表示により終了したが、原告は、解約されたことに納得がいかないとして、被告ハローフーヅに対して、被告灯地建設、更生会社、被告アイ・エス・オーとの間の契約の内容と契約が締結された経緯について説明を求め、被告アイ・エス・オーが原告設計図書を利用していると抗議し、工事の開始を阻止する姿勢を見せるに及んだ。

そこで、被告ハローフーヅの代表者Bが原告との交渉にあたった結果、被告灯地建設と更生会社の共同体を代表して更生会社の黒川営業部長が、原告に対して、原告設計図書を使用しないことを約束したため、原告と被告ハローフーヅとの間で金銭を支払って解決する運びになった。

そして、同年六月八日になって、被告ハローフーヅと原告との間で、本件確認書が取り交わされたが、その際、原告は、開発許可の関係をそのまま維持して、工事がなされることを了承した。

二  争点1(原告設計図は著作物といえるか。)について

1  著作権法(以下「法」という。)上保護される著作物であるためには、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものでなければならないところ(法二条一項一号)、建築設計図は、学識、経験、個性によって決定された設計者の思想が図面として表現されたものであり、学術的な表現であるということができるから、その表現に創作性が認められるものについては、著作物性が認められる。

建築設計図を著作物として保護するのは、建築の著作物(法一〇条一項五号)のように、建築物によって表現された美的形象を模倣建築による盗用から保護する趣旨ではないから、美術性又は芸術性を備えることは必要ない。

また、法は保護の要件として、創作性があることを要求しているだけであって、創作性が高いものであることは要求していないから、設計する建物はありふれたものでもよく、特に新奇なものである必要もない。そして、図面に設計者の思想が創作的に表現されていれば、著作物性としては十分であり、建物の建築図面として、その図面により建築するについて十分であるかどうかという図面の完全性が要求されるものでもない。

2  原告図面1(公図の写し)について

原告図面1は、本件建物の敷地付近の公図の写しに、敷地の周囲の道路の幅、敷地となる土地の周りの長さと面積を記入した図面と敷地の所有者名と地番、地積を記載した敷地面積表からなるものである。

しかしながら、公図は、登記所に備えられているものであり、原告もそれを写したにすぎないから、公図の写し部分に創作性はなく、著作権は発生しない。

原告図面1には、本件建物の敷地の面積、周りの長さ及び道路幅が記載されており、また、所有者ごとに土地の地番や面積等をまとめた敷地面積表が記載されているが、これらの記載は、客観的な事実であって、何人が記載しても同一となるはずのものであり、その表現方法も同一とならざるを得ないから、右部分は創作的表現ということはできず、原告に著作権は成立しない。

原告は、寸法を入れる位置にしても、分かりやすさなどを工夫した旨主張するが、創作的表現と評価できるものではない。

よって、原告図面1には、著作物性を認めることはできない。

3  原告図面6(現況敷地平面図)について

原告図面6は、本件建物の敷地の現況図であるが、現況図とは、原告が設計を依頼された建物自体ではなく、その敷地について、道路との境界線や、長さ、杭の位置などを、現況どおりに図面化したにすぎないものであり、客観な事実の記載であり、縮尺、方角さえ決まれば、ほぼ同一の記載となるものであって、その記載には創作性を認め難いものである。原告は、段差の表現方法について工夫した旨主張するが、創作的表現と評価できるものではない。

よって、原告図面6には、著作物性を認めることはできない。

4  表について

原告設計図のうち、表の形式で記載されているのは、前記原告図面1の敷地面積表のほか、仕上表(原告図面3の1と2)、空調機器に関する機器表(1)(原告図面17)、換気機器に関する機器表(2)、換気計算書の取入外気量、火気使用室換気量(以上は、原告図面18の1と2)、衛生器具表(原告図面24)、スプリンクラー設備計算表及び補助散水・設備計算表(原告図面30の1と2)である。

表については、記載された事項の内容や数値自体は、表現方法ではないから著作物性はなく、表に著作物性が認められる場合は、表の形式そのものが特別のものであったり、表を構成する項目の選択やその記載の順序などに特別の工夫が見られる場合に限られるものである。

原告は、各項目の記載方法や順序が原告のオリジナルであると主張するが、記載内容でなく、その配列に著作物性があると認められるためには、すなわち、編集著作物であると認められるためには、配列がオリジナルであるだけでは不十分なのであって、配列自体に特に創作性が認められる場合でなければならない。

前記原告図面中の表には、特別の表形式のものはなく、表の構成する項目の選択やその記載の順序に特別の工夫はない。

結局、原告設計図中の表部分については、著作物性は認められない。

5  その余の図面について

原告代表者の供述によれば、設備図面を含め原告図面(前記2ないし4を除く。)は、原告代表者がその一級建築士としての知識と技術を駆使して、そのスタッフとともに、あるいは設備業者に依頼して、創作したものと認められ、そこには原告の思想が表現されているといえるから、原告の著作物であると認められる。

被告らは、本件建物が、被告ハローフーヅの構想、指示に基づいて作られているとして、原告設計図に著作物性はないと主張するが、著作物として保護されるべきは、著作物から読み取ることのできる建築思想(アイデア)ではなく、その表現形式自体であるから、著作権者がアイデアの発案者である必要はないのである。被告ハローフーヅが、本件建物自体について、具体的なイメージを有しており、それを原告に伝えていたとしても、原告は、依頼者である被告ハローフーヅの希望を容れて、そのイメージが現実に建築が可能なように、設計図として表現したのであって、そこには、原告の個性が現れ、創作性が表現されていることは明らかである。

三  争点2(被告設計図は、原告設計図を複製したものか。)について

1  著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、本件において、複製の事実が認められるためには、①被告設計図が原告設計図に依拠して作成されていること、②原告設計図と被告設計図との間に同一性が認められることが必要である。

2  証拠(被告アイ・エス・オー代表者)によれば、被告アイ・エス・オー代表者は、被告設計図を作成する以前に、被告灯地建設から原告設計図書を渡されており、原告設計図を横に置いて被告設計図を作成したのであり、被告設計図のうち、原告設計図を見ないで作成したものはなく、外注した設備図面についても、外注先に、原告設計図書と、被告設計図のうち被告アイ・エス・オー代表者が作成したものを渡しているというのであるから、依拠の機会があったことは明らかである。

被告アイ・エス・オー代表者は、原告設計図を見てはいるが、原告設計図を写す意思(依拠の意思)はなく、被告設計図は独自に作成したものである旨供述する。しかし、被告アイ・エス・オー代表者の供述を全体として見れば、結局、被告アイ・エス・オー代表者は、被告ハローフーヅに依頼されたように、本件建物の建築費を八億円まで下げるためには、原告設計図を大幅に改変する必要があったところ、右改変は、設計変更という程度を越えて、独自に設計したと評価できる程度まで達していた旨述べているにすぎない。

そして、本件で著作物とされるのは図面であるから、たとえ被告アイ・エス・オー代表者が独自に本件建物の設計をし直したとしても、それが図面として表現された場合に、原告の表現と同一と認められる部分があれば、原告設計図を見ている(依拠の機会がある)以上、実際にもそれに依拠しているものと認めざるを得ない。

3  ②の要件である同一性の判断にあたっては、複製であると主張されている被告図面と原告図面を比較することになるが、その際、両図面が全く同じであることは必要でなく、原告図面の内容及び形式を覚知させるに足る同一性があれば、②の要件を満たすものといえる。したがって、異なる部分があったとしても、それが、量的あるいは質的に微細であって、図面全体の同一性が損なわれる程度のものでなければ、右部分の存在は、同一性ありとの判断に影響を及ぼすものではない。

逆に、同じ部分があるとしても、異なる部分の存在により、量的あるいは質的に別の著作と観念される程度に至ったものは、複製ということはできない。

よって、被告図面について、原告図面と同一性があるかについて、判断する

4  被告図面2(配置図)と原告図面2との同一性について

原告図面2は、本件建物の敷地に、本件建物、第一ないし第三駐車場を配置した状態を記載したもの、被告図面2は、本件建物の敷地に、本件建物及び第一駐車場を配置した状態を記載したものである。

被告図面2は、本件建物を囲む道路の線、敷地に対し建物の外形を示す線(設計変更された東側部分は異なる。)、第一駐車場の東端部分の設計変更部分を除いた駐車枠の取り方が、原告図面2とほぼ一致する。

被告らは、被告アイ・エス・オーが設計をするについては、既になされていた開発許可を活かすことが前提となっており、原告もこれを了承していたところ、右開発許可申請書には、原告が作成した原告図面2が配置図として添付されていたから、被告アイ・エス・オーが、建物と駐車場の配置、駐車台数などに関して原告図面2と同じ内容の図面を作成したとしても、これをもって著作権侵害を問うことはできないと主張する。

しかしながら、開発許可で定められた事項は、建物と駐車場の配置、道路との出入方法や駐車台数等の事項に限られるし、これらの事項についても全く変更ができないわけではなく、現に、被告図面2においても第一駐車場の東端部分の出入口について変更をしているから、被告図面が原告図面と全く同一である場合には、原告図面の複製をしたといわれてもやむを得ない。そして、原告が、開発許可に関係する部分について、原告図面と全く同一の図面を作成することまで了承したことを認めるに足る証拠はなく、原告代表者の供述によると、そのような事実はないものと認められる。

前記のとおり、被告図面2と原告図面2では、建物が設計変更されたため当該部分の外形を示す線が異なるほか、第一駐車場の東の入口の位置が変更され、最も東側の部分を通路にし、その分東西に並んだ駐車枠を増やしている点で異なるが、駐車場の駐車枠の取り方は、右変更点を除いて同一であり、全体として被告図面2と原告図面2は同一であり、複製であるといわざるを得ない。

5  被告図面7(外構図)と原告図面7の同一性について

両図面は、本件建物付近の道路の線、敷地に対し建物の外形(東側は除く)を示す線、第一駐車場の位置及び東端部分を除く駐車枠の位置、第二及び第三駐車場の位置及びそれぞれの駐車枠の位置がほぼ一致している。

そして、第一駐車場の位置及び駐車枠が同一であること、第二及び第三駐車場の位置及びそれぞれの駐車枠の位置がほぼ一致していることからすると、被告図面7は原告図面7と同一であり、複製であるといわざるを得ない。

第一駐車場の東端の部分の駐車枠の取り方が異なっていたり、被告図面7には第一駐車場と第二駐車場の間にも駐車スペースが設けられているほか、子細に見れば、原告図面7には存在する車止め表示点線が被告図面7には存在しなかったり、駐車場のフェンスの高さが異なるなど、異なる部分も存在するが、これらの部分は、被告図面7全体の中ではわずかな部分であり、右部分の存在によって、両図面が異なるものということはできない。

6  被告図面8(外構詳細図)と原告図面8について

被告図面8は、被告図面7の外構図の数カ所について、駐車場の舗装の仕方、フェンス等の構造及び道路、側溝との関係について記載した図面であり、舗装の厚さや構造など被告図面8にピンク色で表された部分を除き、原告図面8と同一である。

しかしながら、右図面に記載されている道路、側溝との関係は、開発許可の関係で、大幅な変更はできない事項であり、原告図面8と同じ内容のものとせざるを得ないものであった。そして、原告図面8の表現方法に特別なものはない。

よって、被告図面8も著作権侵害にはあたらない。

7  被告図面9(一階平面図)と原告図面9について

被告図面9は、本件建物の一階平面図であり、原告図面9は、本件建物の一階平面図と、駐車場(第一駐車場)を記載したものである。

両図面は、本件建物部分は、建物の外形を示す線のみならず、建物のほぼ中央部分に被告ハローフーヅの売場を配し、その西側と北側の周辺にテナントを配していること、テナントの業種とその配置順も同一であること、北西端に客用便所を設けその東側に客用入口と二階への階段を設けていること、東側のほぼ同じ位置に客の入口を設け、客用の二階への階段とエスカレーターもほぼ同じ位置にあること、売場の南側と南東側にかけてバックヤードを設けていること、従業員用の更衣室や食堂、便所、鮮魚と精肉の各バックヤード、冷蔵庫、冷凍庫を配していることなどの点において共通し、建物の東西方向の柱が九メートルのスパンで配されていること、ハローフーヅ売場とバックヤードの仕切りの位置、ハローフーヅ売場の中央に置かれたゴンドラの数、位置がほぼ一致するなど、一見すると同一のもののような印象を受けるものではある。

しかしながら、ショッピングセンターの商品売場を真ん中に置き、その周りを囲むようにテナントを配置するという方法は、スーパーなどショッピングセンターとして公知のものである上、前記認定のとおり、テナントの配置順や入口の位置や売場のゴンドラの数とその配置方法等は、客の動線を考慮に入れた被告ハローフーヅの構想と指示によるものであって、その配置及びその位置に関しては、原告の創作性は認められない。

しかしながら、原告代表者は、依頼者である被告ハローフーヅの希望を容れて、そのイメージが現実に建築が可能なように、設計図として表現したのであって、そこには、原告代表者の個性が現れ、創作性が表現されていることは明らかである。そして、建築の設計図という著作物の性質からすると、売場やテナントの配置、入口や階段エスカレーターの位置や仕様がどのようなものとされているかが、設計図としての著作の異同を決定するものであるから、図面に表された具体的な線や図形の表現の異同について更に検討し、建物を建築する図面として見て量的あるいは質的に同一といえるかについて判断する。

そこで、被告図面9を子細に見た場合は、原告図面9とほぼ一致する部分は、建物の外壁線の位置と東西方向における柱のスパンと数、売場とバックヤードとの境の位置などのほか、ゴンドラの位置と数及びその書き方くらいであり、極めて少ない。

一方で、被告図面9が原告図面9と異なる部分としては、次のようなものがある。

(一) 南北方向の柱のスパンが一〇メートルであった部分も九メートルと両端を除き均等にされている。

(二) テナントのうち、化粧品・薬局部分は、北側西寄りの入口が狭くなったため広くなっているし、ベーカリー、寿司、総菜、漬物もそれぞれ広さが異なることが明らかであり、西側のテナントについては外へのドアが設けられている。

(三) 北側西寄りの入口は、幅が一メートル狭くなった上、風除室のドアも外側を回転ドアとし、内側は引き戸としている。

(四) 東側入口も、北側一杯まで幅が拡げられ、ドアの数も増えている。

(五) エスカレーターとその横に設けられた階段は、位置が入れ替わっているほか、エスカレーターの幅を狭くし、階段が広くなっている。

(六) 北西角の客用便所の手洗い場の形が異なるほか、女子用便所については、位置も変わっている。

(七) バックヤードについても、南西の階段が変更されているほか、エレベーターと階段の位置が変更され、原告図面9で鮮魚バックヤードの冷凍庫であった部分を売場との通路にした関係で右一角の位置が変更されている。また、段ボール置場南側の階段がスロープになっている。

そして、それぞれの変更について、いずれも理由があることが認められ、原告図面から引き写したことを分かり難くするような目的で手直ししているにすぎないというようなものではないと認められる。

なお、図面の中央に多くのゴンドラが配置され、大きなスペースを占めており、しかもその書き方が同じであることが、両図面の印象を似たものとしているが、ゴンドラは、被告設計図書によって建築する目的物ではなく、ただ照明や排水などの設備工事の内容を決めるのに必要なため記載されているものにすぎないのであって、設計図の異同の判断にあたっては、重視すべきではない。また、その書き方が特別の表現であるということもできない。

以上のとおり、被告図面9と原告図面9とを比較すると、異なる箇所が多く、設計図として見た場合は同一のものとはいえないといわざるを得ない。

8  被告図面10(二階平面図)と原告図面10の同一性

原告図面10は、本件建物の二階平面図と、駐車場の外枠を記載したものであり、被告図面10は、本件建物の二階平面図である。

両図面は、売場のゴンドラの位置及び数、バックヤードの位置、男女更衣室、会議室及び事務室の位置及び形状、各所のドアの位置などが、ほぼ一致している。また、テナントの位置もほぼ同じであるが、被告図面10では、一階北西の入口の仕様が変更になった関係で、衣料品店の形状が変更されており、ラーメン店やお好み・タコ焼お持ち帰りコーナーの位置も変更されている。

変更点は、階段やエスカレーター、エレベーターの変更に伴うもののほか、二階の外壁より外側に東側から北側、西側の一部にかけて、空調の室外機等を置くためのスペースを帯状に設けていることが、大きく異なっている。

被告図面9に述べたと同一の理由で、売場とテナントの配置が同一であるということだけでは、著作権侵害に該当しない。そして、前記同一の点と異なる点を比較検討すると、設計図として見た場合は同一のものとはいえないといわざるを得ない。

9  被告図面11の1ないし3(立面図、断面図)と原告図面11の1ないし3の同一性について

被告図面11の1は、本件建物の南側及び東側立面図、被告図面11の2は、本件建物の北側及び西側立面図、被告図面11の3は、本件建物の断面図であり、原告図面11は、本件建物の外観を四方から記載した立面図及び本件建物の断面図を記載したものである。

原告図面11の1ないし3(ただし、設計図面としては一枚であり、被告図面との対比のため11の1ないし3とされているにすぎない。)と被告図面11の1と2は、屋階に設けられた看板については、字体に至るまで全く同じであるが、これは、被告ハローフーヅの商標であるから、図面の作成者が創作したものではない。

そして、両図面は、図面を観察したときに印象の大きい、本件建物の窓やドアの大きさ、形、配置、数が異なる。また、被告図面11の1ないし3においては、二階に東側から北側、西側の一部にかけて空調の室外機等を置くためのスペースにアルミ製のパネル板を帯状に設けていることから、外観上異なる印象を強くしている。

したがって、被告図面11の1ないし3と原告図面11の1ないし3との間に同一性は認められない。

10  被告図面12(階段平面詳細図)と原告図面12の同一性について

被告図面12は、北西の入口及び階段詳細図であるが、原告図面12に比べて、階段の幅が広く、踊り場までの階段と踊り場から二階までの階段の間の隙間が小さくなり、踊り場における段数にも違いが生じているほか、一階の高さが低くなった関係で踊り場から二階までの階段の段数が少なくなり、二階に上った部分が広くなっている。また、入口については、風除室の奥にあった回転ドアを入口側に設け、引き戸を入口から風除室の奥に設けることとし、風除室全体を入口に近い方へ移動させている。そして、入口部分の上に位置する二階部分の凹部をなくしている。このように、両図面は異なる部分が多く、同一とは認められない。

原告は、入口の幅が被告アイ・エス・オーの設計では四三〇〇ミリメートルと原告図面12に比べて一〇〇〇ミリメートル小さくしているのに、被告図面12では同じ幅で書かれ、寸法も五三〇〇ミリメートルと記載されていること、回転ドアの幅は規格品で一八三七ミリメートルであるのに、原告図面12の引き戸の幅として記載されたと同一の一七三一ミリメートルと記載されていることをとらえて、被告図面12が原告図面12を写した証拠であると主張するが、複製であるかどうかは図面全体を見て、同一かどうかで決定されるものであり、被告図面12が原告図面12を写したものであるとしても、図面全体を見て異なると評価される本件においては、これを複製に該当するということはできない。

11  被告図面13(便所詳細図)と原告図面13について

被告図面13は、本件建物の客用便所及び従業員用便所の詳細図であり、原告図面13は、客用便所及び従業員用便所の詳細図及び展開図である。

両図面は、男子用便所及び女子用便所の外枠、ドアの位置などがほぼ一致し、個室の割り方も、一致する部分が多い。

しかしながら、被告図面13では、客用女子便所について、一階では和式便器であったものが二階では洋式便器に変更され、それに伴い、右変更部分の図面が、一階部分の図面左側に追加して記載されている。このことによって、客用便所については、追加部分も含めて、一つの広い便所であるような印象を与える図面となっており、客用便所全体について、前記一致部分を感じさせないものとなっている。

また、両図面において印象が強いのは、便器や手洗い場の形(表現)及びその配置であるところ、客用女子便所の個室(便器)について、原告図面13では、北側に一つ、東側に二つ置かれ、西側には手洗い場が設けられているのに対し、被告図面13においては、東側は手洗い場であり、西側に個室(便器)が三つ並べて設けられるという設計変更が行われている。また、原告図面13においては、すべて和式便器が採用され、それと分かる形で記載されているのに対し、被告図面13では、洋式便器が多く採用され、それと分かる形で記載されている。手洗い場の形も、原告図面13では楕円形で記載されているのに対し、被告図面13では四角形で記載されている。これら印象の強い部分の相異は、両図面全体の印象を異ならせるものとなっている。

したがって、両図面に同一性は認められない。

12  被告図面33(R階平面図)と原告図面33の同一性

原告図面33は、本件建物の屋階平面図(エレベーター部分については断面図となる。)と駐車場の外枠及びエレベーターの平面図を記載したものであり、被告図面33は、本件建物の屋階平面図である。

両図面は、本件建物の外枠の大きさが同じであるが、右外枠は、図面として見た場合は単に四角形が書いてあるだけであって、それほど印象の強いものではない。

一方、原告図面33を観察した場合に目を引くのは、本件建物の北西の角に記載された屋上広告塔、東側に記載されたエレベーター機械室及び階段、南東角に記載された補給水槽及びスプリンクラーテスト弁、図面の右側に別に記載されたエレベーター機械室の平面図であるところ、これらはいずれも被告図面33には記載されていないか、あるいは、原告図面33とは異なる位置に記載されているものである。

したがって、両図面に同一性は認められない。

13  設備関係の図面(被告図面14、15、16、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29の1と2、30の1、31、32)について

(一) 被告図面のうち14、15、19、20、21、22、26、27、31、32の各設備関係図面は、被告図面9の一階平面図、図面10の二階平面図を原図とし、これをコピーした図面にそれぞれ設備や機器の位置や配線関係を記載したものであり、被告図面16は図面2の配置図の基となった図面に電気配線関係を記入した図面、被告図面23は、屋上階の平面図に設備関係を記入した図面、被告図面29の1、2は、被告図面13に衛生設備を記入した図面である。

よって、これらの図面についての著作権侵害は、設備や機器の位置や配線について検討することになる。

子細に検討すると、被告の設備関係図面と原告の設備関係図面では、設備や機器の位置や配線関係に同じものは少ない。もっとも、本件建物の全体の大きさや構造、テナントや売場のレイアウトが似通っていることから、設備関係についても同一の内容となる部分はある。しかしながら、設備関係図面は、設備を示す単純な記号と、その配線によりなるものであって、建物本体の設計図面とは異なり、作成者の知識や経験に裏付けられた、個性を有する創作的表現は見られないのが通常である。原告が、一部の設備関係図面の作成を、設備専門業者に依頼しているのも、設備の位置さえ原告の方で決めておけば、それを図面にする際には工夫の余地がなく、定型的な記載方法となることを前提としたものと考えられる。このような創作性の認められない表現が同一であったとしても、著作権侵害にはあたらない。もちろん、設備関係図面であっても、特に個性を有する表現をとっているのであれば、創作性を認める余地はあるが、原告の設備関係図面にそのような事情は認められない。結局、本件において、前記設備図面に著作物性は認められない。

(二) 被告図面24は、衛生設備の系統図であるが、原告図面24と作成方法が似通っている。原告は、このような系統図は原告独自の図面であり、作図方法にも特徴があるという。

しかしながら、被告図面24には、一階ストア、機械室への系統が記載されていないほか、テナントについて、ガスや水道を、いずれも連結する内容とはなっておらず、手前で止める内容とされており、原告図面24と異なる。そして、原告図面24においては、それぞれの配管の組合せ機器の種類が分かるように厳密に書き分けられているのに対して、被告図面24は配管されることだけしか表されていない。

このように表現方法において重要な点で被告図面24は原告図面24と異なり、全体の印象も異なるので、両図面を同一ということはできない。

(三) 被告図面25は外構設備図であるが、原告図面25とでは道路の位置、第一駐車場の駐車枠が一致する。特に、被告アイ・エス・オーの設計においては、東端部分の駐車枠について設計変更されているにもかかわらず、被告図面25では、原告図面25と同一である。しかしながら、これらの事実は、原告図面25を写したことの証拠にはなり得ても、いずれも創作性の認められない部分であり、これが同一であるからといって著作権侵害になるとはいえない。

ところで、原告図面25は一階平面図に設備関係が記載されているが、被告図面25は配置図らしきもの(原告図面2と最も似通っている。)を基に記載されており、全体に印象が異なる。また、設備関係についても、建物の北側のほか、西側にも排水管を設ける内容となっているし、排水設備の位置、個数も異なる。

よって、両図面が同一であるとはいえない。

(四) 被告図面28は衛生設備の配管平面図である。原告図面28と対照すると、配管の記載方法が似通っていると認められるが、右記載がなされている位置と線の長さ方向は必ずしも同一ではなく、全体から見て同一であると評価できず、複製とは認め難い。

(五) 被告図面30の1(スプリンクラー系統図)と原告図面30の1の同一性

被告図面30の1は、原告図面30の1の系統図をそのまま切り張りしたものである。系統図は、その創作性の程度は別として、原告の著作物であることは否定できないから、そのままこれを切り取り、使用することは、右図面の複製に該当する。

14  以上によれば、被告アイ・エス・オーの作成した被告図面中、被告図面2の配置図、被告図面7の外構図及び被告図面30の1のスプリンクラーに関する系統図の三枚は原告図面と同一であると認められ、これらがいずれも原告図面に依拠したことは、前記のとおり容易に認められるから、複製に該当する。

四  争点3(原告は、原告設計図書の使用を許諾したか。)について

1  前記争いのない事実等によれば、本件確認書において、被告ハローフーヅは原告に対し設計料三四〇〇万円の支払を約し、これを支払ったところ、被告らは、設計料全額を支払ったから、被告らが原告設計図書をそのまま使用できることは当然であると主張し、右確認書二項において、原告設計図書を使用しないとの意味は、別途設計図書を作り直さなければならないことを合意したものにすぎないと主張する。

2  前記争いのない事実等のとおり、平成三年六月八日、本件確認書が取り交わされたが、証拠(原告代表者)によると、その作成経過は次のとおりである。

平成三年五月三一日、原告代表者は、被告ハローフーヅが作成した本件確認書の草稿に、原告側の要望を書いて、被告ハローフーヅにファックスで送信した。右草稿は、①被告ハローフーヅは、原告に対し、本件工事についての設計料として三四〇〇万円を支払う、②被告ハローフーヅは、原告の設計した本件建物に関する建築設計図面は、今後使用しないことを確約する、③原告は、被告ハローフーヅの本件建物の建築完成に対し、協力することを確約するというものであったところ、原告の書き加えた要望は、条項②の「今後」を、「一切」に変更すること、及び条項①の「設計料」は、本来は解決金であるところ、被告ハローフーヅの要望により設計料として処理したことを明記する条項を加えることであった(甲一八)。なお、被告ハローフーヅ代表者は、右草稿を作成しておらず、甲一八も、本件訴訟まで見たことはないと供述するが、甲一八が右日時に原告から送信されたものであることは、右文書に機械印字されている送信記録部分から明らかであること、甲一八を送信する相手は、合意当事者である被告ハローフーヅ以外に考えられないこと、右原告の要望①が、本件確認書において採用されていることなどからして、被告ハローフーヅ代表者の右供述は採用できない。

平成三年六月八日、本件確認書に、原告と被告ハローフーヅの記名押印がされたが、右原告の要望②は採用されなかった。しかしながら、同日付けで、原告の役員であるHと、被告ハローフーヅの代表者の了解なしで原告と何らかの合意を行うことはできない立場にあるI秘書室長との間で、三四〇〇万円につき、原告としては和解金又は解決金としたいが、被告ハローフーヅが経理上の処理のためすべての報酬金を設計料としたいということを、双方が口頭で確認し了解し合うということについて、書面(以下「覚書」という。)が作成されている(甲四)。

3  以上のことからすれば、原告は、これまで、被告ハローフーヅの要望に沿うような設計を行うため、原告設計図書の手直しを行い、見積額としても、被告ハローフーヅの予算内に収まる状態までもってきたにもかかわらず、被告ハローフーヅから、本件工事の設計監理から外されることを一方的に告げられたのであって、そのことに対し強い不満を持っていたものである。また、原告は、原告設計図書が盗用されていたとの思いを強くしていた。そのような状態で、現実に原告が本件工事から外れることになれば、原告は、被告ハローフーヅが、本件工事から原告を外しておきながら、原告設計図書を使用するのではないかということに、強い懸念を持つはずであって、そうであるからこそ、本件確認書草稿のすりあわせに際しても、原告設計図書を「一切」使用しないとの、強調文言を挿入することを要求していたものと認められる。

このような事情に鑑みれば、原告は、被告ハローフーヅに対し、原告設計図書を、いかなる形であっても使用することは許諾していなかったはずであり、原告設計図をそのまま使用することはできないが、別途設計図面を作り直しさえすればよい旨合意したとの被告らの主張は不自然である。本件確認書の文言どおり、原告設計図書の使用は、いかなる形であっても許されていなかったものと認められる。

4  被告らは、被告ハローフーヅが原告に対し、設計料として三四〇〇万円を支払っていることからすれば、本来原告設計図書を使用できることは当然であると主張する。しかし、甲四及び甲一八の記載内容、及び前記認定のとおり、本件建物の設計や、地元との折衝、開発許可申請行為等に携わってきた原告が、これから工事を開始するという段階になって、本件建物に関する業務から外されたことについて、被告ハローフーヅと原告との間に確執があったことなどからして、三四〇〇万円は、覚書(甲四)で合意、確認したとおり、設計料ではなく、本件契約の解約に伴う解決金的なものであると認められるから、被告らの主張はその前提を欠き理由がない。

5  以上によれば、原告が、被告らに対して、原告設計図書の使用を許諾したことはなく(開発許可の関係書類は別である。)、被告アイ・エス・オーの前記複製行為は、著作権の侵害になる。

五  争点4(原告の損害及びその額)について

1  著作権侵害による損害額

甲43によると、原告設計図書全体は一二八枚からなるところ、前記認定のとおり、被告アイ・エス・オーが原告の著作権を侵害したと認められる図面は、三枚だけであり、原告に損害が発生したことは明らかであるものの、その額を立証させることは著しく困難であると認められる。

そこで、当裁判所において、相当額を認定することとするが、原告が、原告設計図書の作成により通常得べかりし設計料は、本件工事の現実の請負代金額九億五二七五万円(乙一二)を基準にすると、その四・三パーセント(甲四七である四〇九六万八二五〇円であり、右設計料は、本件原告設計図書全体(一二八枚の図面)の対価であるから、単純計算すると、一枚当たり三二万円強である。そして、右三枚の図面が、本件建物の設計に占める重要度が特に大きいものとも思われない。

これらの事情を総合考慮して、本件著作権侵害による原告の損害は、一〇〇万円をもって相当と認める。

2  著作者人格権侵害による損害額

被告アイ・エス・オーが、被告設計図を前提にした本件建物の建築確認申請において、原告の氏名を表示しなかったことについては争いがなく、また、被告アイ・エス・オーが右三枚の図面の一部について改変を行っていることは明らかであるところ、右行為は、原告の氏名表示権(法一九条)と同一性保持権(法二〇条)を、それぞれ侵害するものである。これにより、原告は、本来であれば自己のものとなるはずであった名声を被告アイ・エス・オーに奪われ、一方で、被告アイ・エス・オーによる改変部分については、原告の関知しないところで、意に副わない表現を採用されたのであるから、これにより原告の被った精神的損害は、三〇万円と認めるのが相当である。

3  被告らの責任

被告アイ・エス・オーは、原告設計図書に依拠して複製行為をなし、著作権及び著作者人格権の侵害行為をなしたものであり、同被告に故意があったことは明らかである。

被告ハローフーヅは本件工事の発注者、被告灯地建設及び更生会社は本件工事の請負者ではあるが、右被告らが、被告アイ・エス・オーの右著作権や著作者人格権の侵害行為を知っていたことを認めるに足りる証拠はないから、右被告らは、被告アイ・エス・オーの著作権及び著作者人格権の侵害行為について、共同不法行為責任を負うものではない。

4  本件訴訟の追行を考えると、著作権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権についての弁護士費用は一〇万円、著作者人格権侵害による不法行為に基づく損害賠償請求権についての弁護士費用は三万円と認めるのが相当である。

六  争点5(債権侵害に基づく請求)について

1  前記四認定のとおり、前記確認書において被告ハローフーヅが、原告設計図書を使用しない旨約束し、確認書を取り交わすに至る交渉経過の中で更生会社及び被告灯地建設の共同企業体が、原告に対して、原告設計図書を使用しないと約束したことが認められる。

2  原告は、被告らによって、原告設計図書を使用をされない原告の権利が侵害されたとして、共同不法行為による損害賠償を求めるところ、原告が侵害行為と主張する行為の内容は、原告設計図書に従って本件建物を建築したということであり、被告設計図書に従って本件建物を建築したとしても、被告設計図書は原告設計図書の複製であるから、原告設計図書に従って本件建物が建築されたということになるとの主張を含むものであると解される。

しかしながら、本件建物の建築工事が一部にしても原告設計図書に従ってなされたとの事実については、これに符合する原告代表者の供述があるものの、原告設計図書に従ってなされたという工事部分は特定されておらず、にわかに右供述を採用することはできず、右主張を認めるに足りる証拠はない。弁論の全趣旨によれば、本件建物は被告設計図書の内容どおり完成されたものと認められる。

前記認定のとおり、被告設計図書のうち三枚は原告設計図面の複製に該当するものであり、右三枚の設計図面のうち原告設計図面と同一の部分の工事は、原告設計図面を使用したものとなる(原告設計図面を改変した部分の工事は、原告設計図面を使用したことにはならない)。

しかしながら、前記認定のとおり、被告アイ・エス・オー以外の被告らが、被告設計図書の著作権侵害事実を知っていたと認めるに足りる証拠はないから、複製と認められる設計図面のうち同一の部分と認められる工事がなされたとしても、右被告らに原告の権利を侵害する共同不法行為があったということはできない。

被告アイ・エス・オーに関しては、原告の主張する債権侵害行為は、著作権、著作者人格権の侵害行為と同一の行為であるか、あるいは主要な事実において重なるものであり、損害の内容も異なるものではないと認められるから、仮に不法行為が成立するとしても、著作権、著作者人格権の損害とは別に算定すべきものはない。

七  結論

以上によれば、原告の請求は、被告アイ・エス・オーに対して、著作権侵害(弁護士費用を含んで)として一一〇万円、著作者人格権侵害(弁護士費用を含んで)として三三万円、合計一四三万円の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、被告アイ・エス・オーに対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求は理由がないから棄却する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 佐藤哲治 裁判官 達野ゆき)

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